成安造形大学
2018年、春 情報デザイン領域始まる。
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情報デザイン領域

美術家 飯川雄大

  1. SCENE 1
  2. SCENE 2
  3. SCENE 3
イラスト
SCENE 1

映像で表現する、時間の感覚。

映像、写真を使った作品を制作する美術家として主に活動しています。僕の映像作品のテーマや内容としても原点になったのが、卒業制作でつくった、「時の演習用時計」(2003年〜)という作品です。これはトータルで24時間、つまり1440分ある映像です。時計の針やデジタルの数字表現は使わずに、自然の風景や生き物などを撮影した映像を多数使って編集してあり、流し続けていたら毎日同じ時間に同じ映像が流れるようになっています。映像から逆に時間について考えられるようなものをつくりたいと思って始めました。卒業制作で発表した時は24時間つくるのが間に合わなくて、コンセプトだけ展示する感じになりましたが、様々な映像のバリエーションで今もなお撮影を続けている作品です。ちなみに、最初の24時間分は、卒業して3年後に発表しました。

制作した当時は、学生で映画制作に影響を受けていましたが、映像の弱点として上映会として見る人の時間と場所を必要としてしまうことが嫌いでした。そこで、24時間いつでもアプローチできる作品はないかと考えた末、椅子とかコップとか、日常に使える製品の中に自分のテーマを入れ込んだ作品の方がアプローチできるのではないかと思い、「時間や時の流れで変わる、人の考え方」や、「日常で使われるもの」を軸として、「時計をつくる」ということにたどりつきました。

時計としてみると使いづらいけど、ずっと見てたら、不思議と何か伝わってくるんです。毎朝4時半に犬の映像が流れたりとか。体感すると使えます。

それ以降、映像作品として「時間や人間の感覚」をテーマに、身近だったスポーツ、特に世界中でも共通言語になりうるであろうサッカーをテーマにした作品を多数発表しました。サッカーのプレー時間を半分の20分にしてひとりの選手の反応を見る映像作品「ハーフタイムプロジェクト」(2008年)や、試合中にボールに触れないで過ごすゴールキーパーを見つめる映像作品「ハイライトシーン」(2014年〜)など。どれも「日常的な風景の中の気づき」がテーマになっています。

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イラスト
SCENE 2

映像と写真、イラストも、組み合わさって表現になる。

基本的に個人の作品をつくるときは映像が多かったんですが、写真やイラストといった手法でも表現する場面があります。写真は雑誌などのポートレート撮影の仕事を受けたり、イラストではグッズをつくったり、四コママンガのワークショップを行ったりしています。最近では、『震災リゲインプレス』というNPOのフリーペーパーにメインビジュアルを、2015年より継続的に描かせてもらうようになりました。それらは一応区別してやっていたんですが、それぞれにフィードバックがあって、最近は複合的な表現として生まれることがあります。

面白い形でできた表現のひとつが、「六甲ミーツ・アート 芸術散歩2016」で発表した「デコレータークラブ -Mr.Kobayashi, The Pink Cat-」という作品です。これは僕が普段イラストで描いてる「猫の小林さん」という猫のキャラクターを大きく立体作品にして、六甲有馬ロープウェーの六甲山頂駅に設置したものなんですが、「デコレータークラブ」という作品のシリーズとして位置付けています。

この「デコレータークラブ」という作品は、「衝動とその周辺にあるもの」というテーマで、記録することで欠落してしまう情報について考えた作品です。僕らは感動したものが目の前に現れたとき、写真で記録して、その写真を見せたりSNSなどで人に伝えると思うんですが、写真で伝わることというのは、サイズや色、形といった情報で、実は一番伝えたかった衝動みたいなものが伝わらないということがあります。「デコレータークラブ -Mr.Kobayashi, The Pink Cat-」は、わかりやすくかわいいものとしてのピンク色、愛されやすい象徴としての猫、インパクトのある巨大さで限られた会期のみこの場所にいるという性質を持っています。実はピンクは蛍光色でオブジェクト自体が発光していて写真に写りづらく、5メートルあって引いても全体が収まって撮れるような広い場所には設置していません。また、作品の横には「あなたなら、ピンク色の猫を見た時の衝動をどう伝えますか?」と、想像力を働かせてもらうためのヒントも施しました。

面白いものを撮影して伝えたいという何気ない行為の仕組みを考え直すような体験をしてもらい、それを客観的に見て考えてもらおうという装置になっています。コンセプトをがっちり固めてはいますが、造形物としての楽しさでもいいし、インパクトがあることでもいいので、何か少しでも感じ取ってもらえたらと思ってつくりました。

同じ「デコレータークラブ」シリーズの作品を2015年に兵庫県の塩屋の公園で展示した時は、六甲とは全く異なる形で展示。塩屋で出会った面白いものの周辺にあるものや風景を被写体にした写真をパネルにして、箱のように組んだボックスにしました。さらにこのボックスを使った展開として、音楽ユニット・ゆうきの楽曲「あたえられたもの」のミュージックビデオやCDジャケットのアートワークとして使用しました。映像や写真、イラストといった自分の表現をさまざまに織り交ぜながら、自由に発想することが今は楽しいですね。

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イラスト
SCENE 3

サッカーを練習しながら、考えてます。

2014年にベルリンにアーティスト・イン・レジデンス(アーティストがその土地に滞在して作品制作などを行うこと)で行く機会に恵まれました。現地の草サッカーチームでゴールキーパーに着目した「ハイライトシーン」という作品を制作。ボールがゴール付近に来ない時のキーパーがぼんやりしてたり寝転んでたり、コミカルな映像作品なんですが、作品づくりのために現地でサッカーのコミュニティに入り込む必要があったんです。外国人でつながりもなくて言葉もおぼつかないとなると、現地の人たちと仲良くなってからでないと撮影は難しかったからですが、コミュニティに関わってサッカーをプレーしながら作品をつくる経験が楽しくて、自分のスタイルに合っていることに気づきました。メンバーに次の試合の予定を聞いて、自分もプレーしながら、友達の日本人のカメラマンに撮影してもらうんです。

そうして異国のサッカーのコミュニティに入り、サッカーの試合を傍観するのではなく、なかに踏み込むことでわかることがありました。例えば、サッカーだけに限らないんですが、スポーツって元は地域から立ち上がったもので、ひいては、地域の紛争とか、人種問題もすぐそばにある。白人だけがプレイヤーのチームがあって、そのチームのファンは白人だけということも。いろんな問題を抱えながらも娯楽として成り立っている背景が見えたんです。日本では企業のチームが多いので、そういった問題は浮き彫りにはならないというのがあります(最近、Jリーグでもサポーターの差別行為がたまに話題になってきてます)。

僕自身のサッカー原体験は、小学生の時。サッカー部で、ロングシュートを決めて一躍ヒーローになったという嬉しい思い出が今も尾を引いているところがあります。高校生でもサッカーをやってましたが、ずっと補欠だった。そのとき勝てなかった相手にまだ勝ちたいような思いもあって、今、草サッカーのチームに所属しながら、さらに基礎からサッカースクールで習ってるんですよ。ブラジル人のコーチで著名なネルソン松原さんと、ヴィッセル神戸の元監督に週1回教わってます。プロが見ている視点を教わると、試合を見るだけでも今まで見えてなかったポイントが数多く見えてきます。パスする時の思考は面白くて、パスを出す人とその周りで起きてること、受け手のことをどれだけ考えられるか。チームプレーですから、試合の後の反省や、監督、キャプテンとのコミュニケーションも大事。この歳になって人間関係の基礎を教えてもらってるような感じ。スポーツから学ぶことは多いです。

…と、ただのサッカーの話になってしまいましたが、僕の中でドイツに行った時期を含めここ何年かで自分の作品や思考の整理をしてわかったことは、サッカーであったり時計であったり、扱う題材が変わろうとも、普段私達が注目しているものの外側にある気づきにスポットライトを当てているという点で、作品に込めるテーマや興味のポイントは一緒なんだなと改めて気付いた部分もあります。

そうはいってもサッカーは好きなんで、今注目しているのは、サッカーの試合中のコミュニケーション。試合中に飛び交う会話も、言葉だけに注目してみると、妙に面白かったりするので、サッカーというものを新しい視点で見渡してみて、そこから生まれる新たな映像作品を、サッカーを練習しながら、日々考えてます。

(インタビューは2017年5月に行われたものです)

WORKS

「デコレータークラブ –Mr.Kobayashi, The Pink Cat-」(六甲ミーツアート芸術散歩2016、神戸)2016年 木材、蛍光塗料 500 cm x 650 cm 協力:MAKER'S、株式会社POS 建築観察設計研究所、丸山僚介 撮影=Takehiro Iikawa
「デコレータークラブ –衝動とその周辺にあるもの-」(神戸市塩屋東町市民公園、神戸)2015 年 240枚の写真、40個のボックス、木4500m x 4000cm  展示協力:シオヤプロジェクト、ヒロセガイ、(有)キューアンドエー 撮影=Takehiro Iikawa
「遭遇するとき -Happening Upon-」(滋賀県立近代美術館、滋賀)2013年 マルチチャンネルビデオインスタレーション 12個のフレーム、木のボックス 展示協力:oguma LLC、NECディスプレイソリューションズ、カシオ計算機株式会社、株式会社キヌガワ京都、ソニーマーケティング株式会社、三菱電機株式会社 撮影=Yuya Saito
映像作品「ハイライト・シーン –ゴールキーパー-」(2014年)より
映像作品「時間泥棒ハーフタイムプロジェクト_サッカー」(2008年)より
ゆうき「あたえられたもの (mv version)」撮影・監督

PROFILE

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美術家
飯川雄大

1981年兵庫県生まれ。2003年、成安造形大学映像クラス卒業。記録という行為とそこからこぼれおちるものを考察し、映像表現を中心に、写真、イラストレーションなど様々な分野の作品を発表している。
http://takehiroiikawa.tumblr.com/

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